三つのパートで奏でる子どもシンフォニー

おすすめBOOK『少子化時代の保育と教育』

教育&保育関係者が未来への覚悟を決める一冊

2017年8月28日
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少子化時代の保育と教育

『少子化時代の保育と教育』/坂崎浩著/世界文化社刊/A5判96頁/1600円+税。

坂崎隆浩(さかざき たかひろ)

坂崎隆浩(さかざき たかひろ)
1960年生まれ神奈川県出身。社会福祉法人清隆厚生会理事長、幼保連携型認定こども園・こども園ひがしどおり園長。日本保育教会理事、保育総合研究会副会長、青森県合唱連盟副理事長などを務める。

★下北半島から見る30年後の世界
 著者の坂崎隆浩氏は日本保育協会(日保協)を代表する論客の1人。日本中を駆けめぐり「こども園時代と保育園の未来」を語っている。その坂崎氏が経営する「こども園ひがしどおり」は青森県下北半島の村にある。太平洋に面した人口6500人の漁村・東通村である。この小さな村から大都会へ、タイムトンネルを潜り抜けるように月に何度も行き来している。だからこそ、保育と幼児教育の過去と現在、そして未来を敏感に感じ取ることができるのだろう。この本の中でも、30年前の検証と30年後への展望が繰り返し出てくる。30年前と今をよく考えれば、30年後はおのずと見えてくるという論法である。そうした坂崎氏の最新論点をまとめたのがこの本だ。
 本を開いて、おや?と思ったのは、その構成が第1楽章「転換期の乳幼児施設」から第7楽章「子ども・子育て関連三法の先にあるもの」に流れ、序曲と終曲も付いた壮大な交響曲仕立てになっていることだった。著者紹介に「青森県合唱連盟副理事長」とある。そのことをメールで尋ねると、「実は私、合唱コンサートの指揮には命を懸けているんです」との返信がきた。納得である。
 その指揮棒から発信されるメッセージは「私たちは今、認定こども園、保育所、幼稚園の三つのパートに分かれているが、少子化社会をさらに混沌とさせてはいけない。賢くたくましい子どもを育てるという同じ目的のため、三つのパートは協調して美しいハーモニーを奏で、日本の未来を明るく拓いていこう」というものだった。そのために「保育所は、幼稚園が取り組んできた教育活動の中身をもっと学ぶことが必要だ」とも提案する。具体的には、助け合いや粘り強さなどの非認知能力の育ち、保護者との協力体制、地域社会との連携などで、それは幼稚園教育が140年の歴史の中で積み上げてきた良さであり、若い保護者からは「古い体質」と敬遠される部分でもある。それをしっかり見極め、良いものを取り入れようというのが坂崎氏の基本姿勢だ。
 2016年10月、函館市で行われた日保協の全国理事長・所長研修会は、保育所からの認定こども園移行が増大する中、「幼稚園は自分たちの世界を守ろうと閉鎖的になっている。こども園時代をリードするのは保育所だ」という空気が支配的だった。しかし分科会のパネル討論で坂崎氏は「幼稚園の底力を軽んじてはいけない。状況を一転させる力を彼らは持っている」と慎重だった。その心が、この本でようやく理解できた思いであり、同時に「やっぱり幼稚園はウカウカしていられない」の思いを新たにした。
 さらに幼稚園保護者450万人の署名をテコに国会に提出された幼児教育振興法案については、「これが成立して、幼児教育無償化と5歳児義務化の道ができれば、保育所と幼稚園の融合は劇的に進むだろう」と述べている。「幼稚園の我田引水的法案」と見る保育所、認定こども園関係者が少なくない中、こうした積極的応援は非常にありがたい。一方で、果たして幼稚園関係者が、この法案について同じ気持ちを持っているかどうか心配になったほどである。
 保育所の課題、幼稚園のツボ、認定こども園の行方をコンパクトにまとめ、保育と教育の30年先を見据えたこの本は、幼稚園関係者にこそ読んでもらいたい一冊だ。奇しくも全日本私立幼稚園連合会の香川敬会長は音楽大学で指揮を専攻した人である。30年後、いやできれば20年後に、日本の幼児教育&保育シンフォニーが地球全体に響きわたることを期待したい。

幼保連携型認定こども園・こども園ひがしどおりHP

幼稚園情報センター 片岡 進