降り残しの3歳児が熱中症で死亡

繰り返された園バスの悲劇

バス廃止を考える契機にも

2023年3月26日

★理事長や園長の運転が隙を生む
 2022年9月5日、静岡県牧之原市の私立幼稚園(認定こども園)で、園バスに残された3歳女児が熱中症で亡くなる事件が起きました。1年前、福岡県中間市の保育園で起きた5歳男児の事件とほぼ同じです。子どもの命を何より大切にすべき幼児教育機関が最悪の悲劇を繰り返したのです。
 第一の共通点は園長が運転していたことです。園内で最も信頼のある園長が運転すると、バスに対する職員の緊張感に隙が生まれ、いつものチェックを忘れがちです。「園長先生が運転しているなら心配ない」という不思議な安心感が職員全体に広がるからだと思います。だから「園長や理事長がバスを運転するのは絶対ダメ」が業界内の常套句になっています。今回の園長さんも知っていたはずですが、代わりの運転手が見つからず、「それなら私が…」と言い出したのだと思います。それが取り返しのつかない結果になりました。どんな事情があっても、園長や理事長の運転は絶対に許されないことを改めて肝に銘じてください。
 第二の共通点は、どちらも小型幼児バスで幼児12人の定員に対し福岡が7人、静岡が6人と利用園児が少なかったことです。この少なさも、園長と添乗職員の気持ちに「心配ない」の隙を生んだ気がします。もし満席だったら人数確認、車内点検を真剣にやったと思うからです。
 思えば昭和時代の園バスは中型か中型ロングのマイクロバスが主流で、園に到着すると40〜50人の園児が次々に降りてきました。それが園児減の時代になって小型バスが主流になったのに、それでも座席の半分が空いている園は少なくありません。これでは月4〜5千円のバス代を利用者が負担しても、運転・添乗職員の人件費、車両代、燃料費をまかなうことは到底できません。つまり経営を支えるはずだった園バスが、今は経営を圧迫する存在になっているのです。
 それならこの際、思い切って園バスを廃止することを考えてみたらどうでしょうか。
 幼稚園と園バスの関係は70年を超える歴史があります。交差点での衝突や発着時の巻き込みなど数多くの交通事故を経験しました。もちろん安全管理者と運転職員のための研修や実習は毎年実施されますが、事故はなくなりません。
 2年続いた取り残し事件を受けて、車内監視および通報機器の設置、園児によるクラクション鳴らし方体験、各座席に緊急ブザーの設置、ドアと運転席窓の常時開放……などハイテクからローテクまでさまざまな対策が提起されました。それは大切なことです。しかし、どんなに優れた装置をつけても、対策に万全を期しても、バスがある限り事故はゼロになりません。完全な安全対策、それはバス廃止の他にありません。
 「何を馬鹿なことを言っている!」という声が聞こえてきます。「バスがあるから、遠方の人もこの園を選んで通ってきてくれる。そういう人がいる限りバス運行は続ける。それが経営だ!」という声も聞こえてきます。
 でも本当にそうでしょうか。50年前、30年前とは幼児教育に対する親の考え方は大きく違ってきているのです。「近くに園があるから」とか「バスが来てくれるから」で園を選ぶ親はめったにいません。いくつもの園を見学し、教育内容と環境、職員や園児の様子ををよく見比べて「ここがいい」と判断するのです。そう判断したなら、バスが利用できなくても、何とか工夫して自分で送迎を行う、それが親心です。
 悩んだ末にバスを廃止した園が、逆に親の評価を高めて園児が増えた事例はいくつもあります。パートの時間を削り、2人の子を6年間送迎した母親も、園まで歩いて通える所に家を建てた父親も知っています。繰り返された園バスの悲劇は「そろそろバスをやめたらどうか」という幼稚園の神様の啓示のような気がしてなりません。
幼稚園情報センター・片岡進