選挙遊説中に手製の銃で暗殺される

追悼・安倍晋三元首相

豪腕で幼児教育無償化を実現

2022年10月2日

★幼稚園PTA全国大会に毎年出席
 参院選の投票日を2日後に控えた2022年7月8日(金)、古都奈良から全国に衝撃が走りました。選挙遊説中の安倍晋三元首相が銃撃されたニュースです。助かってほしいとの願いも虚しく還らぬ人となりました。
 安倍氏は、首相在任が歴代最長(8年8ヶ月)となる不世出の政治家でした。首相退任後も自民党の最大派閥を率い、今後も日本の政治を左右するキーマンであり、三度目の首相登板もあり得ると思われていただけに、その呆気ない最期には言葉がありませんでした。それも、手製の銃とゆるんだ警備体制が招いた悲劇とは……まさに運命のいたずらと言うしかありません。
 功罪相半ばする指導者と言われ、評価の分かれるタカ派政治家でしたが、少なくとも幼稚園・保育園関係者にとっては功の多い首相だったと思います。全日本私立幼稚園連合会が主催するPTA全国大会には、海外出張がないかぎり出席して挨拶を述べました。外遊から戻ったその足で会場に駆けつけたこともありました。
 「森(喜朗)先生から『必ず出席してくださいよ』って国際電話が毎晩かかってくるんです。欠席したら何言われるかわかりませんから、私も大変です」と挨拶を始める前に理由を明かし、会場を笑わせました。これにはPTA連合会の初代会長を長く務め、名誉会長になった森元首相も苦笑いです。「名誉会長の役割は、この場に現総理を連れてくることです」と常々言っている仕事ぶりも明かされたわけです。
 大会の会場は都道府県ごとにエリアが決められ、演壇すぐ前の最前列に安倍氏の選挙区である山口県代表団が陣取っています。主催者の配慮ですが、これに応えて「ご配慮をいただき恐縮です」と律儀に毎回前置きをしました。そして秘書官が作成した挨拶文を丁寧に読みながらも、その文面から思い出す自分自身の幼稚園体験を、アドリブでチラッと混ぜ込む器用な人でした。挨拶文を読み終えると、「お子さんにとって一番大事なものはお母さんの健康です。どうかお身体を大切にしてください」などと自分の言葉を添え、詰めかけた園児保護者の気持ちに触れました。
 2009年の総選挙で、「幼児教育の無償化をめざす」を公約に掲げた自民党は敗れましたが、2012年の総選挙で政権復活を果たし、直前の自民党総裁選で辛勝した安倍氏が首相に返り咲きました。この勢いに乗じ、翌年7月のPTA全国大会は幼児教育無償化の実現と幼児教育振興法の成立を訴えました。首相の挨拶は、文面に無償化にも法案にも触れていませんでしたが、最後に「幼児教育無償化に向けて私も頑張っていきます」と言葉を添えたことで、動きが本格化しました。
 そして2017年の大会では、「これから国会に戻って衆議院を解散します。選挙公約の第一は幼児教育無償化です」と宣言し、居並ぶ報道陣を慌てさせました。その言葉どおり、2019年10月、「満3歳以上の幼児教育・保育無償化」がスタートしました。安倍首相の豪腕さがなければ、これほど早く実現することはなかったと思います。
しかし、その豪腕とスピードに幼児教育振興法案の成立が追いついていけず、全日本私立幼稚園連合会で約7億円の使途不明金事件を生んでしまったのは残念なことでした。でもそれは安倍氏の罪に数えるものではありません。
 元首相の悲劇は、銃撃した犯人が旧統一教会に恨みを持つ人物だったことから、図らずも、これまで世間の裏に隠れていた政治と宗教の癒着を露呈する結果になりました。憲法20条が定める「政教分離」の原則を越える関係が、多くの政治家の間で長く続いていたことが明らかになったのです。元首相の死を無駄にしないためにも、ここで改めて政教分離の認識を国民の間に明確にしてもらいたいと願うばかりです。
幼稚園情報センター・片岡進