廣川達郎氏(埼玉県学事課長)が園長研修会で講演

幼児教育無償化は未来社会への道しるべ

目的は少子化対策と教育の質向上

2018年8月20日

★疑問と不安も根強くあるが
 2020年度からの実施が予定されていた幼児教育無償化は、予定を早めて2019年10月から始まることになりました。消費税率引き上げと同時に行うことで、庶民の買い控えを食い止めたい政府の願いです。対象は、幼稚園、保育所、こども園に通う満3歳〜5歳児のほか、3歳未満の低所得家庭の子ども、一定の要件を満たす認可外施設の子どもにも拡大されました。無償化は、アベノミクス成長戦略の鍵を握る重要政策と位置づけられているのですから、前倒しは当然の措置と言えます。
 消費活動の促進に加え、無償化には「少子化の歯止め」効果も期待されています。「それならもう一人」というムードが芽生えれば大成功です。一方で、疑問と不安の声も根強くあります。「教育の中身より経済優先でいいのか?」「子育てに対する親のモラルが低下するかも知れない」「子ども達の未来を考えるなら国の借金を減らす方が先だろう?」「すでに低所得家庭では無償化が実現している。一律無償化は逆に貧富の格差を生む心配がある」「5歳児の義務教育化(=小学校入学年齢の引き下げ)論議が加速するだろう」「保護者にはメリットがあるが施設運営側にはメリットがなく、教育内容の充実・改善につながらない」……等々です。そのため、幼稚園・保育所関係者はもとより、保護者の間からも歓迎ムードが高まっていません。

★成果は30年後に見えてくる
 そんな中、5月末、栃木県鬼怒川温泉で行われた(公社)全埼玉私立幼稚園連合会(四ツ釜雅彦会長)の園長研修会で、埼玉県総務部の廣川達郎学事課長が講演をしました。例年、私学担当課長の講演は「何でも自由に私見を語ってほしい」とされていますが、今回、廣川氏が選んだテーマは「幼児教育無償化とAI時代」でした。
 この中で彼は「無償化から生まれる状況を短期的に考えてはいけない。その成果は、20年、30年先に見えてくるものです。20年、30年先の社会は、人間の能力を超えたAI(人工知能)と人間が共生する世界です。本当の人間力が問われる時代です。無償化で、幼稚園経営にも間接的に余力が生まれるはずです。それを生かして、より優れた人間性を持つ子どもを育ててください。幼児教育はトレンドではなくマインドです。後で振り返って、あの時、思い切って無償化をして良かった。あれが未来への道しるべだったんだ、と思える道を作っていきましょう」と呼びかけました。
 講演の前、会場では「無償化のことを考えると、気持ちがモヤモヤする」という声があちこちで聞こえました。ところが講演が終わると、雰囲気は一変しました。幼稚園経営者の心にかかっていた霧が吹っ切れたように感じました。

★経済効果は電動アシスト自転車から
 廣川氏は触れませんでしたが、日本社会は、すでに多くの外国人と共生する時代になっています。その点でも日本人の人間性が問われることになるでしょう。
 さて、首都圏のある幼稚園で「無償化になったら何がほしいですか?」と、お迎えのお母さん方に聞いたところ、㈰電動アシスト自転車、㈪マンション、㈫家族の旅行費用、㈬キャンプ用品、㈭ママの習い事費用などが上がりました。電動アシスト自転車は地方都市で聞いても常にトップです。幼児教育無償化の経済効果は、幼稚園の駐輪場に最新自転車がズラリと並ぶ光景から始まる気がします。
 オリンピックもサッカーワールドカップも、開幕前は関心が薄いのですが、いざ始まると一気に盛り上がります。幼児教育無償化も同じことかも知れません。何はともあれ、来年10月、幼稚園周辺の状況が人間力アップに動いていくことを期待しましょう。

※廣川達郎氏の講演要旨は『月刊私立幼稚園』の研修会レポートに掲載してあります。

※この記事のPDF版(「園ふぁん」第468号)
ようちえん情報センター 片岡 進