桑戸真二氏が「ジャクパ特別講演会」で明かした

保育所からの認定こども園移行が増えた理由

動機はイメージアップより財政的メリット

2016年8月9日

★認定こども園が認可施設全体の1割に
 子ども・子育て支援新制度(以下=新制度)が始まって2年目。その根幹となる認定こども園は、2016年4月現在で4001園となり、認可施設合計の1割に到達した。(認定こども園の類型別内訳、年次推移、都道府県状況は添付のPDFを参照のこと)
 旧制度から新制度に変わって注目されるのは、保育所からの認定こども園移行が急増したことである。その数は1年目が1047、2年目が786と幼稚園からの移行を大きく上回った。理由は移行手続きが簡単になったことだ。幼稚園と保育所の傘かけ方式だった旧制度では、保育所が幼保連携型認定こども園になるには幼稚園としての認可が必要だった。ところが新制度では定員の空いている部分で1号子どもを受け入れるようにすれば、幼保連携型でも保育所型でも移行できることになった。園庭の広さなど幼稚園が必要とする設置基準などは、ほとんど問われないのである。
 保育所が認定こども園になれば、近くに住む1号子どもの親にとっては選択肢が増える。実際、幼稚園から保育所の認定こども園に入園を変更した事例は少なくない。また保育所にとっては、認定こども園の看板は教育機関としてのイメージアップに繋がることになる。そしてもうひとつ、保育所には財政的メリットがあり、それが大きな移行動機になっていることを、(株)福祉総研代表の桑戸真二氏が、(株)ジャクパの特別講演会でわかりやすく解説した。その内容をお伝えしよう。時は2016年2月26日(金)、場所は東京信濃町の明治記念館でのことである。
 (株)ジャクパ(五十嵐勝雄社長/本社=東京小平市)は全国の幼稚園、保育所に対して体育、英語の講師派遣、園庭・園舎の環境整備、未就園児教室・野外体験教室の実施など幅広く教育活動をサポートしている会社である。この同社事業を利用する幼稚園・保育所の経営者のために、著名人の講演会を定期的に開催している。今回の目玉講師は、ラグビー・ヤマハジュビロの清宮克幸監督で、約200人が参加した。その6割が幼稚園関係者で、認定こども園に関する桑戸氏の話に熱心に耳を傾けた。

★小規模幼稚園の内包で収入大幅増
 桑戸氏の講演テーマは「幼稚園・保育園・こども園。今、知っておくべきこと」。この中で次のような事例を紹介した。
 「定員65人の保育所が実際には50人しか子どもがいない。そこで空いている15人の枠で、3歳、4歳、5歳の1号子どもを各5人ずつ受け入れる幼保連携型認定こども園にした。すると定員65人の保育所のままでいるより年間収入で約1500万円の増収になった。これは保育所の経営にとってありがたいことです」と。
 私学助成では、小規模幼稚園に対してさまざまな加算補助を行う傾斜配分があり、小さくても十分やっていける配慮がなされている。この仕組みを認定こども園に準用しているため、15人の幼稚園部分に手厚い給付がなされるというわけである。
 さらに桑戸氏は「待機児の存在は地域的に偏在している。大都市圏でもすでに半分くらいの保育所は定員割れになっているので、今後、保育所からの認定こども園移行は加速するだろう。大都市圏の幼稚園も“まだ大丈夫だ”などと思っていてはいけない」と警告した。
 首都圏の幼稚園も、ここ20年で平均園児数は1割ほど減った。しかし半減した事例もある地方都市に比べると減少幅は小さい。「減ってちょうど良くなった」と思っている経営者もいる。そのため「なにも無理して認定こども園になることはない。私立幼稚園で十分やっていける」という自信も生まれた。しかし、1号子どもが保育所に通い始める、という新たな浸食が始まっていることを忘れてはならない。

★幼保のパワーバランスが変わる
 桑戸氏はもうひとつ、ある地方都市の実例も紹介した。「ひとつの地域に、300人の子どもが集まる人気のA園があり、そのそばに園児が減って120人になったB園があった。悩んだ末、B園は認定こども園で生き残る道を選んだ。その結果、三分の一の園児が2号子どもになり、親は負担が減ったと喜んだ。すると仕事を持っているA園の親たちが“うちの園も認定こども園にしてほしい”と言い出すようになった。理事長は何とか説き伏せたが、その余波は近隣のC園、D園にも及び、両園は翌年から認定こども園に移行することにした。その状況から、A園もいよいよ移行に動かざるを得なくなったわけです。このように、ひとつの園の決断が地域全体の状況を変える現実が、すでに新制度1年目で生まれている。これは地域の幼稚園を変えるだけでなく、それまで楽な経営をしていた保育所に影響を与え、幼保のパワーバランスを崩すことが予想されます。保育所にとっては怖いことです」と。
 幼稚園を選ぶ母親が、利便や費用ではなく、我が子の将来のために、何事にも替えて真剣に選ぶ現実を知っている私幼経営者は、そんな情報には動じないかも知れない。しかし保育所事情に詳しい桑戸氏からのこのメッセージは、心にしっかり留めておく必要があると思った。

※2016年4月1日現在の認定こども園の数(PDF)

※桑戸真二氏の講演の様子(YouTube動画)

幼稚園情報センター・片岡 進