こども園の形態で5つの案が俎上に

今こそ年齢区分の第6案を提起すべきチャンス

5つの案はどれも同じ着地点をめざす

2010年11月21日

★衆議院予算委員会でのやりとり
2010年11月8日(月)の衆議院予算委員会。民主党の城井崇(きい・たかし)議員(福岡第10区)が幼保一体化について質問した。
「子ども・子育て新システム検討会議のワーキングチームで議論を行っていると聞いている。しかし結論はもう固まっているとも聞くが、それはおかしいのではないか。実際に子育てをしている親たちに議論の様子が見えない、わかりづらいという問題もある。幼稚園にも保育所にも長い歴史と文化がある。幼保一体化は両者の実績を生かし発展させるためのひとつの手段だ。その方向を間違えないよう、また国民によく見える形で十分議論を尽くしてほしい」と。
まさに新システム検討会議の横暴さを突いたものであり、ワーキングチーム(WT)の中で噴出した異論反論の根拠となる問題点を指摘したものである。それが与党議員から出てきたところが面白い。これに対して同会議の共同議長である岡崎トミ子少子化対策担当大臣は次のように答えた。
「出回っている案は、ワーキングチームの委員がそれぞれの意見を持ち寄るためのひとつの素材としてのイメージに過ぎない。幼保一体化は親の就労に関わらず良質の幼児教育、保育環境を提供するためのものだ。丁寧な議論を積み重ね、議論を深めていく」
この大臣答弁を裏付けるように、11月16日(火)に開かれた「第3回幼保一体化ワーキングチーム会合」では、新たに誕生する「こども園(仮称)」の姿と位置づけについて計5つの案が提示された。

★5つのイメージ案の中身と違い
取り急ぎ5つの案の中身を紹介しよう。WT会合で配布された資料の全文を巻末に添付したが、わかりやすく説明すると次のような形になる。
【第1案】
2013(平25)年から10年間の移行期間を設けた上で幼稚園、保育所はすべて新こども園に移行する。幼稚園制度・保育所制度は2023年までに廃止する。
【第2案】
新こども園の中に、3歳以上を対象とする「幼児教育型こども園」、3歳未満を対象とする「保育型こども園」など多様な類型を設ける。幼稚園制度・保育所制度は2013年で廃止するが、引き続き幼稚園、保育園の名称を使うことはできる。
【第3案】
新こども園、幼稚園、保育所の三つが併存する形にする。幼稚園制度・保育所制度は存続させるが財政支援の面で新こども園への移行を誘導する。
【第4案】
幼稚園制度・保育所制度を存続させ、幼保一体的に運営する施設を新こども園として指定する。(これが現行の認定こども園制度に一番似ていると言える)
【第5案】
10年間の移行期間を設けた上で現行の保育所をすべて新こども園に移行させる。幼稚園制度は存続させ、こども園と幼稚園が併存する形になるが、財政支援の面で幼稚園も新こども園に移行するよう誘導する。

★「こども園に一本化」の最終目標は共通
「あんなに頑なだった民主党政権が、どうしてまた一気に5案も提示してきたのか?」と驚いている人も多いだろう。
それは「我々は何もひとつの案をごり押しするものではない。考えられる形はこれだけある。さあどうぞご自由に議論してください」と、ある意味で事務局が開き直ったと言えるかも知れない。あるいは官僚で構成する事務局としては現実的構想案も用意したのに、政権側の思惑で一番抵抗の強い案に絞られたことに対する反発があったのかも知れない。そして民主党政権側としては、その内部反発を利用して幼稚園制度の存続を主張する幼稚園陣営に複数のボールを投げ込むことで「絶対反対!」の論拠を封じ込め、結束力に水を差す仕掛けをつくったとも言える。
といっても第1案と第2案は当初の案に織り込まれていた内容なので、正しくは「新たに三つの案が追加された」と言うべきだろう。
現行の認定こども園制度は私立の場合、施設はどれも、認可外であっても幼稚園、保育所のどちらかの制度枠内に位置づけられ、そのミックスした形を「認定こども園」としている。その意味では「こども園を新システム法上の指定施設とする」という第4案が近い。一元化を一体化としたように、認定を指定に読み替えただけとも思えるが、その言葉の違いには、手続きが大変な“認定”に対して、必要な条件が整っていれば“指定”するという意味合いが感じられ、条件緩和と運営簡素化が期待できそうだ。つまり乳幼児専門の保育所以外は、幼稚園も保育所も大半が「指定こども園」との二枚看板になり、「何だか知らないうちに民主党政権が言っていた“幼保一体化”が実現したらしい」という状況づくりが可能になる。
これに対して第3案は、制度上に存在する目に見えないこども園ではなく、はっきり目に見えるこども園施設の存在をイメージしている。地方裁量型の公立認定こども園の存在が念頭にあり、現在の認定こども園を含む私立の既存幼保合築施設、そして新設施設をその形に誘導することを狙っている。今の認定こども園は存在感が弱いが、「こども園・幼稚園・保育所」の三つ巴状態をはっきりさせることによって、こども園の勢力図を広げていこうという思惑である。
公立幼稚園が、この独立こども園に移行して生き残りを図る可能性が高く、全国国公立幼稚園園長会としては設置者(市区町村)の意向と幼稚園教育アイデンティティのはざまで、第3案と第4案の間を揺れ動くことになりそうだ。
第5案は、単に保育所の看板を「こども園」に掛け替えるだけでどれほどの意味があるのか?と思うかも知れないが、とりあえずは現行の保育所に対する財政制度が変わらないということで保育所側に安心感を与えることができる。そして「保育所になるわけではありません。こども園になるんです」と幼稚園も積極的に呼び込むことができると考えたものである。保育所側の支持が得られれば現実感が増す案だと言える。

★「0〜2歳が保育所、3〜5歳が幼稚園」の第6案を
当初案に織り込まれていた第1案は10年間の移行期間をもうけ、また第2案は幼稚園、保育所の名称を継続できるということで、どちらも当分の間は現状と変わらない状態を想定している。
この状況は第3〜5案も同じで、「途中経過は違っていても、どれも10年程度の混濁期間を経て最後はこども園にまとめていく」というのが最終目標だ。「10年もあれば財政的インセンティブ(優遇策)で幼稚園をなし崩すことは十分可能」と踏んでいるようだ。たとえ学校教育法の幼稚園制度が存続しても、幼稚園をほんの一握りの絶滅危惧種に追い込み、制度を封印できると考えているのだろう。入り口は違っても出口はひとつの迷路に幼稚園と保育所を誘い込もうとしている。それが民主党政権の戦略である。
その策略に乗らないためにはどうしたら良いか。それにはシンプルで誰にもわかりやすく、入り口も出口も迷わない第6の「年齢区分案(0〜2歳が保育所・3〜5歳が幼稚園)」を提起することである。これなら制度変更は小幅で済むしコストもほとんどかからない。幼稚園、保育所が長年積み重ねてきた歴史・文化・実績を継続することができるし、自分の故郷として馴染んできた名称を変えることもない。
3歳以上児を一手に幼稚園で引き受ければ、0〜2歳に多い保育所待機児問題も大幅に改善できるだろう。二段重ねの保幼一体化施設についても無理にこども園を名称をつける必要はなく、従来どおり幼稚園と保育所の二枚看板で十分だ。何よりこの年齢区分方式なら移行期間を置く必要がなく、すぐにでも制度をスタートさせることができる。
今回、新システム検討会議事務局が5つの案を提示した気持ちの裏には「自分たちはいろいろ検討している。だからすぐにいくつもの案を示すことができる。WT委員の皆さんも異論や反対を唱えるばかりでなく、何か建設的な案を提示してみたらどうですか。できますか」と誘っているような気がする。
それならば「5つの案はどれも帯に短したすきに長しだ。もっとも適切でわかりやすいのはこれだ」と第6案を提示すべきである。ようやくそのチャンスが与えられたと考えるべきである。幼稚園関係の方々が、このせっかくのチャンスを逃すことがないよう切に願うものである。

※こども園についての5つの案(PDFファイル)
幼稚園情報センター・片岡 進