全日私幼連の関東地区教研千葉大会で

知事、市長が“わが幼稚園時代”を語る

記念講演の川島隆太氏も園児の自分を発達診断

2010年9月6日
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森田健作(もりた・けんさく) 千葉県知事

森田健作(もりた・けんさく)
千葉県知事。1949年12月16日生まれ60歳。東京都大田区出身。本名・鈴木栄治。明治学院大学法学部を中退し俳優、歌手、テレビタレントとして活躍。元参議院議員(東京都選挙区・当選1回)、元衆議院議員(東京4区・当選2回)。元文部政務次官。

熊谷俊人(くまがい・としひと) 千葉市長

熊谷俊人(くまがい・としひと)
千葉市長。1978年2月18日生まれ32歳。奈良県天理市出身。早稲田大学政経学部卒業。元NTTコミュニケーションズ社員、元千葉市議会議員(民主党・稲毛区・当選1回)。大前研一「一新塾」第18期生。

全体会では千葉ロッテマリーンズのチアリーダー、キャラクターによる環境保護ミュージカルやダンシング指導も行われた。

全体会では千葉ロッテマリーンズのチアリーダー、キャラクターによる環境保護ミュージカルやダンシング指導も行われた。

 2010年8月17日(火)、千葉市・幕張メッセ国際会議場で行われた第25回全日私幼連関東地区教研大会の開会式で、ひとつ面白い場面があった。
 主催者代表挨拶、開催県代表挨拶、教職員永年勤続表彰……と型どおりに進行し、来賓挨拶で千葉県の森田健作知事(60)が登壇したときのことである。やや小さめの声で持参の原稿を読み始めた姿を見て、会場から「あの森田健作さんが原稿棒読みなの?」と疑問のため息が流れた。すると森田知事は早々に原稿を放り出し、「私、本名を鈴木栄治っていうんですけど、幼稚園は東京大田区の私立幼稚園に通いました。幼稚園が大好きでね、毎朝一番早く登園したもんです」と大きな声で幼稚園時代の回想を語り始めたのである。

★元気な返事をほめられた嬉しさ
 「冬は部屋に石炭ストーブがあって、その周りに友達が弁当を並べていた光景が目に浮かびます。バラ組でした。お遊戯会で魚屋の金太郎を演じました。人生最初の主役です。先生が『栄治くんは歌がうまいんだってね。じゃ、歌ってもいいよ』って言うので、♪粋な黒塀、見越しのま〜つに♪って“お富さん”を歌ったら、『それはダメ!』と大目玉を食いました」
 「その担任の先生が『栄治くんは朝一番に幼稚園に来て、挨拶もお返事も大きな声でできる。みんなも真似するように』って言ってくれたときは、もう嬉しくて嬉しくて、家に帰ってすぐ母親に報告しました。皆さん方も、園児が悪いことをしたときはきちんと叱ってください。でも何かいいことをしたとき、いいところを見つけたときは思い切りほめてあげてください。その子にとっての大きな力になりますから」
 「つい最近、嬉しいニュースが飛び込んできました。その、バラ組のK先生が千葉県内で元気に暮らしていることがわかったのです。何とか早めに時間をつくって、『先生、鈴木栄治です!』と大きな声で遊びに行きたいと思っています」
 堅苦しい挨拶を覚悟していた2000人余の幼稚園教師は、この思いがけない来賓挨拶に沸き立った。自分がK先生になったような思いで嬉し涙をこぼす人もいた。
★親に意見してくれた先生
 続いて挨拶に立った全国最年少の首長、千葉市・熊谷俊人市長(32)は「森田知事が幼稚園時代を語られましたが、私も浦安市の公立幼稚園に通っていて、忘れられない思い出があります」と話を引き継いだ。
 「私は左利きでした。親はそれを右利きにしようと厳しい矯正を始めたのです。それが私は辛くて、幼稚園も楽しくなくなりました。その事情を知った先生が、『たしかに文字は右利きの方がいいかもしれませんが、そのほかは左利きのままで何の問題もないと思います』と言ってくれたのです。おかげで私はストレスから解放され、楽しい幼稚園生活を送ることができました。私が今日あるのは、あの幼稚園の先生の一言にほかならないと思っています。よく『幼稚園の先生の一言が、その子の人生を左右することがある』と聞きますが、まさにその事例を身を持って体験した1人です」
 と述べた上で「千葉市は今年4月から、幼稚園と保育所の所管をひとつにまとめた子ども未来局をつくりました。ですから待機児対策についても、保育所を増設するのではなく、長年の実績と優れた幼児教育を実践している幼稚園に手伝ってほしいと願っています。その点で国の考え方は少しズレている気がします。私は民主党の市議会議員でもあったので、このことを国に働きかけていきたい」と政策論を語ると、会場からは話を中断するほどの拍手がわき起こった。
★私は発達障害だった
 開会式に続いて行われた記念講演でも、講師の川島隆太氏(東北大教授)が「事務局の人から『知事も市長も自分の幼稚園時代を語ったので、お前さんも何か話してくれ』と言われました」と、冒頭に“わが幼稚園時代”の一節を付け加えてくれた。
 「私は千葉市の私立幼稚園に通いました。自分はよく覚えていないのですが、私の描いた絵を見て先生と親が非常にビックリしたそうです。その絵はいつも、花も草も自動車も人間も、すべて一色のクレヨンで描かれていたからです」
 「雨が降ると、道路の水たまりに座り込んで、泥だらけの石ころを通行人に投げつけていたそうです。今の私がその様子を聞いたら『ああ、その子は発達障害です』と間違いなく診断するでしょう。その発達障害児が、これから『脳を育む幼児教育』という講演を行います」と会場を笑わせた。
(※川島教授の講演内容は、その全文を『月刊・私立幼稚園』の研修会レポートに、また『崖の上のポニョ』に関する部分は幼稚園情報センターのコラムに掲載したので、ぜひご一読いただきたい)

 私のような立場の者は、大会の開会式では主催者や来賓の挨拶に耳をすますが、幼稚園の先生方にとっては、同じような話が繰り返される挨拶タイムは退屈なことと思う。しかしこんな具合に、「ご自分の幼稚園での思い出を織り込んでもらいたい」と来賓にお願いすれば、先生たちの記憶に残る開会式になるかも知れない。いや事前のお願いなどしないで、主催者側の人が最初に、自分の幼稚園時代、あるいは今の幼稚園のエピソードをちょっと語れば、気の利いた来賓は敏感に反応してくれるだろう、などと思ったものである。
幼稚園情報センター代表・片岡 進