★財政削減でも規制改革でもない
幼保一体化をめぐる「子ども・子育て新システム検討会議」の議論が進んでいるが、折しも同会議最初の閣僚会議が開かれる前日の2010年4月26日(月)、全国私立保育園連盟(黒川恭眞会長=兵庫県・明照保育園理事長)は東京永田町の星陵会館で「子ども・子育てシンポジウム」を開催し鳩山政権に対してアピールを行った。
約300人が参加した会場には、講演講師の仙谷由人内閣府特命(国家戦略担当)大臣のほか、泉健太内閣府大臣政務官(衆議院議員・京都3区)、大河原雅子参議院議員(東京都選挙区/保育を考える議員連盟事務局長)、小宮山洋子衆議院議員(東京6区/民主党男女共同参画推進会議議長)、それに自ら保育所を経営する土田博和参議院議員(静岡選挙区)が来賓として出席し、それぞれ挨拶を述べた。
同連盟がこうしたアピールを行うのは、2010年1月13日、福島瑞穂内閣府特命(少子化担当)大臣を講師に招いてシンポジウムを開いたのに続いて2回目。
「子ども・子育て新システム検討会議」の作業グループ主査を務める泉健太氏は挨拶の中で次のように語った。
「前政権でも待機児童ゼロ作戦で保育所の増設が進められたが、それは年間2~2万5千人のペースでスピードが足りなかった。それに比べ現政権の子ども・子育てビジョンは年間5万人の定員増を打ち出した。しかし供給を増やすだけではいけない。可能なかぎり質の良い保育環境の整備に努める。それを推進するのが新システムだが、これは財政削減や規制改革をテーマにしたものではない。あくまで小学校入学前のすべての子ども達に質の良い養育と成育環境を用意することが目的だ。しかし都市部には待機児童の問題があるので、これも解決しなければならない。そうした課題に対して幼稚園、保育所、新しい形でサービスを提供している方々(NPOや株式会社)、親、地域のそれぞれが自分たちに何ができるかを考え、方向を定めていきたい。この施設は教育ばかり、あの施設は生活を見るだけ、と思われている実情ではいけない。すべての施設が養護と教育をしっかり行う制度にしていきたい」
★保育環境整備は労働政策に必要不可欠
シンポジウムに先立って行われた約30分の講演で仙谷由人大臣は、「保育政策は人づくりと労働力確保に関わる長期的国家戦略だ」として次のことを語り、今回の制度改革の骨子にしていきたいと明言した。
①日本社会は女性の能力や資格が生かされておらず、職場で管理職に就くケースも諸外国に比べて極めて低い。これは戦後一時期の特異的現象だった専業主婦という病気を引きずっているためだ。
②保育環境の整備は、親の能力を存分に生かし日本を活性化させていく労働政策にとって必要不可欠なことだ。
③今の時代、子どもを健全に育てていくには、3歳以上になったら子ども同士で育ち合っていく社会環境を意識的につくっていく必要がある。
④現金給付(子ども手当等)と現物給付(保育サービス整備のための補助金等)を一元化し、それを市町村で自由に組み合わせることができる制度にしていきたい。また国、地方、事業者、個人が負担する財源を一点に集めて、それを市町村に配分する仕組みにしたい。
⑤これらのことを推進するには、省庁再編とは関係なく実質的「子ども家庭省」の機能を持った役所が必要であり、先行して創設させたい。
【注】仙谷大臣の講演内容全文は添付(付録)のPDFファイルをご参照ください。
「子どもが第一」と言いながら、少子化対策や保幼政策を経済問題、労働問題、年金負担問題などとからめる論点は前政権でもあったが、仙谷大臣の講演はこれをより明確にした点で民主党(連立)政権のスタンスが見えてきた。
一方で幼稚園、保育所が行っている子どもの成長発達に関わる教育活動をほとんど理解していないこともわかった。自律的な家庭を維持し、子どもを健全に育てるという国づくりの理想から考えると、「コンクリートから人へ」を標榜する民主党の政策視点は、残念ながら、子どもの権利や親子の幸福にとって極めて危険なものと言わざるを得ないだろう。
続いて行われたシンポジウムでは、仙谷大臣が述べた中の「③財源の一元化と配分システム」について、連合の中島圭子総合政策局長から具体的な提案があったが、その内容は次の記事で紹介することとしたい。
【付録】仙谷大臣の講演内容全文はこちら(
PDFファイル)
幼稚園情報センター代表・片岡 進