政権交代と私立幼稚園(1)

政治とともに団体も変わろう

2009年9月13日

★2005年から始まっていた政権交代劇
今回の総選挙で自民党が大敗した理由は何か。「自民党に対する積年の不満」から「麻生太郎首相の存在そのもの」まで新聞・週刊誌でいろいろ論評されているが、どうも今ひとつピンとこない気がする。今回の政変劇は今に始まったことではなく、前回の2005年総選挙から始まっていたように思うからだ。
「郵政民営化で自民党をぶっ壊す」と小泉純一郎首相が吠え、頑固に抵抗する自民党議員には刺客を放った。それを見た国民は、古い自民党政治の因習と借金地獄から解放されることを期待して小泉さんを支持し、ニュー小泉自民党が300議席を得た。ある意味で政権交代を果たしたのである。
ところがその後、安倍、福田、麻生と首相が交代する中で、抵抗勢力も復党して古い自民党がみごとに生き返った。そして以前と同じように借金を重ねて利権をばらまく政治を再開した。つまり国民の了解を得ないまま、裏でふたたび政権交代を行ったわけである。小泉トリックにひっかかった国民にも問題はあったが、国民の視線と期待を感じ取れなかった自民党の鈍感さにこそ問題があった。そこで今回の総選挙で、国民は改めて古い自民党に鉄槌をくだし叩き潰したということだろう。

そんな構図の政権交代だったので、国民は冷静に受け止めているが、これまで自民党にしがみつき、利権にありついてきた業界団体は慌てている。まさかここまで大敗するとは思わなかったからだ。「たとえ僅差で負けても、それは自民党にとって良い薬になる。薬が効いてすぐに政権に復帰するだろう。このまましがみついていても大丈夫だ」と読んでいたのだが、しがみついていた幹が突然朽ちたのだから、長いつき合い、人情だといってそのままじっとしているわけにもいかない。古い政治の終焉とともに、団体組織のあり方も考え直すときが来たと言えよう。

★勝てば官軍、負ければ賊軍
日本には昔から「勝てば官軍、負ければ賊軍」ということわざがある。たとえ非道な手段を使っても、とにかく勝ちさえすれば良いという背徳的イメージの漂う言葉であるが、僅差の戦いに持ち込もうとした自民党は、一縷の望みを託して非道に手を染めた。民主党を攻撃した一連のネガティブキャンペーンである。しかしこれがひどく不評で、逆に自民党にトドメを刺したのだから、賊軍と呼ばれても仕方ない。
その自民党のネガティブキャンペーンに幼稚園が荷担したとして全日本私立幼稚園連合会(吉田敬岳会長=愛知県・自由ヶ丘幼稚園)の執行部がやり玉にあがっている。自民党幹部からの要請を受けて、くだんのネガティブパンフを各幼稚園に配布したことに対してである。ここぞとばかりに執行部批判勢力から火の手があがり、ブラックジャーナリズムが油を注いでいる。

たしかにそこまで手を貸したのでは鳩山政権からの報復措置も覚悟しなくてはならず、細川政権の時のような補助金カットがあるかも知れない。しかしこれまで私立幼稚園は、自民党だのみ、森喜朗元首相(前・全日本私立幼稚園PTA連合会会長)だのみで各種の振興策を推進してもらってきた。そして僅差でも自公勢力が勝てば「幼児教育無償化」が実現できるはずだったのだから、その自民党からのSOSを無視することはできなかった。もはや義理と人情の世界で、その事情はよくわかる。企業人のように都合よく冷徹になりきれないのが幼稚園のホットな人情なのである。

★政党ばなれの良いチャンス
しかし逆に考えれば、ここまで義理を果たし、賊軍の汚名までかぶったのだから、遠慮なく自民党と距離をおく良いチャンスになるとも言える。だからといって民主党にすり寄っては見識がない。地方組織と個人の底力がある自民党が体勢を立て直して次の選挙で大勝するかもしれない。あるいは、その緊迫感があるために民主党が上手に国家運営をして長期政権になるかも知れない。いずれにせよ今後は政治状況に緊張感が生まれ、政権交代が繰り返されることが予想される。
 そんな中で、私立幼稚園団体がどちらかの党に寄り添ったりしたら政変のたびに振り回され、組織も分裂していくことだろう。ここはしばし両陣営からの冷や飯も我慢して、どちらの党とも同じ程度の距離をとり、是々非々で政策論議を行うことが肝要だ。そして幼稚園の主張は、直接国民に訴えていく運動を推進していくべきである。政治が変わったのである。団体組織も思い切って変わるときだ。

★超党派議員での政策議論の場を
注目されるのは、毎年11月に開催している全日本私立幼稚園連合会のPTA大会のあり方だ。これまではホテルの大広間に300人近い自民党衆参議員が五月雨式に集まり、司会者の点呼に応えて大きな声で返事をし、手を振りながら会場を去るというスタイルだった。
慌ただしいセレモニーだが、大物議員が続々と集まる様子は壮観だ。幼稚園の大会として相応しいのかと首をかしげる向きもあるが、幼稚園を支持する議員がどれだけ集まるかによって私立幼稚園に対する補助金の額が決まってくる仕掛けになっていたのである。
 しかしもうこの方式はできない。やるならすべての国会議員に案内を出す呉越同舟になるだろうが、それでは民主党も自民党も面白くないし、意味ある大会とも思われない。そもそも団体パワーで予算を獲得するという図式がなくなってしまうかも知れない。もしやるなら、幼児教育や子育ての政策を超党派で本格的に議論する場にしてほしいものだ。

私立学校振興助成法が成立した前後の1970年代、私立幼稚園団体は西岡武夫、藤波孝生、海部俊樹、渡部恒三といった政策通の若手議員をパネラーに招き、園長の代表がコーディネーターを務めて火花散るパネルディスカッションを行ったものである。そんな中から「幼稚園とは面白い世界だ。いろんな人材がいる」と政治家から注目された。今改めて、そうした堂々たる公開討論が再現できる願ってもないチャンスが訪れたと言える。
奇しくも全日本私立幼稚園連合会は、2009年度から10年計画で「こどもの豊かな環境キャンペーン」を実施することを決めた。「子どもにとって豊かな環境とは何か」「人間にとって豊かさとは何か」を社会全体で考える場を、各幼稚園、各地域団体が作っていこうという息の長い運動である。子どものための理想を求めるのが私立幼稚園団体。その真の姿をアピールする絶好のキャンペーンだ。政治とともに団体も変わる。吉田敬岳会長の度胸と手腕に期待したい。
幼稚園情報センター代表・片岡 進