★野菜嫌いの子もいなくなる
ブランコ、築山、砂場、花壇などと並んで昔から幼稚園にあるもので、ここ20年の間に存在感をぐんと高めたものがあります。それは畑です。園庭の中、あるいは隣接している場合もあれば、少し歩いたり、園バスでひとっ走りする場合もありますが、「小さな農園」と呼ぶにふさわしいほど充実しています。どこの園も食育の一環としての農業体験を大事にしているからです。それはまた、今は地方都市の子どもも、家庭や地域で畑の土いじりができなくなった事情もあります。
朝、当番の子ども達が長靴をはいて畑に入り、トマト、キュウリ、ナスをザル一杯にして出てきます。収穫の頃合いを見る目は確かです。中には虫にばかり目が向く子もいますが、それも体験です。調理室に持っていくと「ご苦労さま、今日もおいしいサラダが食べられるね!」と給食スタッフが言ってくれます。ジャガイモ、サツマイモ、大根はクラスごとに一斉収穫を行い、太い大根を一本、ママへのお土産にぶら下げて帰ったりします。
そしてランチタイム。各グループのテーブルの真ん中に、カットされたトマト、キュウリ、大根が日替わりで置かれます。マヨネーズもドレッシングもありません。生のままです。数はきっちり人数分あります。先生が野菜の栄養や畑でのエピソードを話して「いただきます!」。まっ先に野菜を食べる子もいれば、なかなか手の出ない子もいます。野菜が苦手の子どもはどこにでもいます。でも気がつけば真ん中の皿は空になっています。「自分が育てた野菜だから、一切れだけだから、みんなが食べているから」などが、子ども達の背中を押してくれるのでしょう。
★最後のピーマンをみんなで分け合い
畑がなかなか確保できない都会の幼稚園でも、園庭にプランターやバケツを並べたり、屋上に土を入れて小さな農園活動に取り組んでいます。
晩秋の朝、大阪の幼稚園を訪ねた時のことです。ここは屋上に畑がありました。周囲はぐるっと高層ビルです。サツマイモ掘りは終わり、トマト、キュウリは木が枯れて終息状態です。そこに今日の畑当番らしき年長の二人がやってきました。まだ実をつけているナスの状態を見ているうち、大きなピーマンをひとつ見つけました。「おーい、立派なピーマンがひとつあるよ!」と園庭で遊ぶ仲間に呼びかけると、年長さん約30人と担任が急いで上がってきました。
先生は「これがきっと最後のピーマンだね。みんなで食べましょう」と言うと、子ども達が見守る中、細く切り分けました。ピーマンは苦手野菜のナンバーワンです。さすがにこれは遠慮する子がいるだろうと思ったら、あっという間に全員が食べてしまいました。「こうやって毎日のように生ピーマンを食べてきたので、いつのまにかピーマン嫌いが消えました」と先生は笑います。畑の効果に驚きました。
★オヤツが実る果樹も増えて
最近は、ミカン、カキ、ブドウ、キウイフルーツ、ブルーベリー、アーモンドなどの果樹園がある園も増えました。これらは子ども達のオヤツになります。しかし農園は手入れが大変です。園バスの運転手さんが担当する場合が多いですが、園長さんが自ら担当し、農園の作業小屋=園長室というケースも少なくありません。「園長先生、そろそろお誕生会が始まります」と携帯電話に連絡が入ると、麦藁帽子のままホールに駆けつけた園長さんは「今年のサツマイモはできが良さそうだ。楽しみだね」と園児に伝えます。
2月末の埼玉県の幼稚園。卒園間近の年長さんがジャガイモ(種イモ)を植えていました。卒園アルバムを受け取る6月に同窓会を開きます。その時にみんなで掘りだし、カレーを作って食べるとのことでした。体験と夢を育む幼稚園の小さな農園はますます存在感を高めそうです。10年先、20年先にどんな進化を遂げているか楽しみです。
幼稚園情報センター・片岡進