★ゆるくなる「ゆるキャラ三原則」
世はあげて“ゆるキャラ”ブーム。自治体がらみのイベントに出かければ必ずいますし、たまたま訪ねた幼稚園で、人気のゆるキャラに出会うこともあります。千葉県ではチーバくん、埼玉県ではコバトン、福島県郡山市ではガクトくん……といった具合です。
ゆるキャラは、希望する園に2年に1度くらい現れ、ゲームや体操をした後、子ども達と記念写真を撮ります。その写真を各家庭で買ってもらうことで、ゆるキャラ派遣の費用がまかなわれています。写真屋さんが、ゆるキャラの権利を持つ自治体と契約を結び、各園を回っているわけです。記念撮影が終わるとサッと姿を消すゆるキャラもいれば、お母さん方のスマホ撮影にも延々と応じるゆるキャラもいます。私のことを報道関係者らしいと気づくと、「記事にする時はこんな注釈を入れてください」と言ってくる写真屋さんもいれば、「どんどん自由に書いて宣伝してください」と言う人もいます。契約内容もいろいろのようです。
ゆるキャラが続々と登場したのは1980年代、都道府県博覧会などの人寄せ対策でした。2000年に入って“ゆるキャラ”という言葉が生まれ、2010年の第1回ゆるキャラグランプリで彦根市のひこにゃん(誕生は2007年)が優勝して、一気にブームに火が付きました。
ゆるキャラという言葉の考案者である漫画家・みうらじゅん氏が定めた「ゆるキャラ三原則」は、㈰郷土愛に満ちたメッセージ性があること、㈪立ち居振る舞いが不安定かつユニークであること、㈫愛すべき“ゆるさ”を持ち合わせていること、となっています。㈰に照らせば、ゆるキャラは自治体からの誕生が基本です。しかし最近は、企業や団体からも生まれているので、原則もゆるくなってきました。
★在園児保護者に制作を依頼
そんな中、ついに幼稚園からも誕生しました。2017年7月に開催された富山県高岡市・学校法人華聴学園こばと幼稚園(畠山遵理事長&園長/幼保連携型認定子ども園)の創立60周年祝賀会でのことです。園名から名づけられた「Kくん」というゆるキャラが、愛嬌たっぷりに現れました。サプライズな来賓登場に参加者は喜びました。祝賀会の楽しさが2倍、3倍にも増幅されました。
多くの幼稚園が動物、昆虫、花、ドングリなどをモチーフにした独自のマスコットキャラクターを持っています。でもそれは印刷物や看板、帽子、体操服などにプリントされるもので、実際にゆる〜く動き出す姿は初めて見ました。
「ゆるキャラとふれ合う機会が増えれば、子ども達は嬉しいだろう。園独自のゆるキャラなんて作れないものかな…」という園長のつぶやきを聞いたベテラン副園長が、ゆるキャラ制作の経験がある在園児保護者の力を借り、約4か月かけて完成させたそうです。出来ばえは、どこに出しても恥ずかしくない立派なものです。きっと運動会、発表会、誕生会、卒園式、入園式などいろいろな行事で、場を和ませていることでしょう。
★園児争奪ツールと見られない配慮を
ところで、この祝賀会では、もうひとつ驚いたことがありました。それは50周年の時に9人だった教職員が、10年間で5倍の45人に増えていたことです。認定こども園になったこともありますが、職員の懸命な努力で、どん底の園児減から驚異の復活を果たしていたのです。その勢いと余力から生まれた新たな楽しさ、それがオリジナルゆるキャラになったのだと思います。これがもし50周年の時に登場していたら、こんなに和やかに受け入れられることはなかったでしょう。「園児確保のために、とうとうこんな手まで繰り出してきたか…」と冷ややかに見られたと思います。
しかし経営コンサルタントの会社が、この動きを見逃すはずはありません。入園対策のツールに取り入れられ、遠からずあちこちの幼稚園、保育園、こども園から、いろいろなゆるキャラが生まれてくるだろうと予想されます。それは何とも楽しいことではありますが、園児争奪戦の象徴などと見られないよう、各園の十分な配慮を求めたいものです。
※こばと幼稚園60周年祝賀会の様子(YouTube動画)
幼稚園情報センター・片岡進