増える園名の平仮名表記

幼稚園が「ようちえん」になっていく

「こども園」と渡り合う妙案

2018年2月25日

★選抜高校野球も「センバツ」に
 日本人は高校野球が大好きです。幼稚園の先生方にも高校野球のファンは大勢います。甲子園球場に出かけて身体全体で野球を堪能する人もいるでしょう。私もその一人で、春か夏のどちらか、日がな一日甲子園のネット裏に座ることを30年近く続けています。春は「選抜」、夏は「選手権」。選抜とは、秋の地区大会の成績をもとに専門家が出場校を選ぶことからの大会名です。2017年春、その選抜大会で気づいたことがありました。阪神梅田駅の改札口の大看板が「センバツ高等学校野球大会」となっていたことです。慌てて見回すと球場の看板も、NHKのホームページも、選抜ではなく「センバツ」でした。私は出かけるたびに球場の写真を撮るので、パソコン内の画像を調べてみると、デジカメを始めた2003年時点で、すでにセンバツでした。たぶんそれより早く「上から目線的な意味合いを感じさせる漢字の選抜より、センバツの方が良い」と大会関係者が判断したのだと思います。それも、平仮名よりカタカナの方が高校野球のインパクトに合うと考えたのでしょう。
 どうして今さらこんなことが気になったかと言うと、最近、幼稚園を「ようちえん」と表記する幼稚園が増えているからです。
 園内の看板や壁面飾りで、園名がすべて平仮名であることは、かなり以前から見られました。園児にも読めるようにとの配慮です。そんな幼稚園も、大人が読む案内パンフなどは漢字でした。それが最近は、案内看板、各種印刷物、封筒、ホームページ、園バス、ゴム印……など、あらゆるものを「ようちえん」で統一する園が増えているのです。業者関係からの請求書も、宛名が平仮名でないと受け付けないと徹底する園もあります。もちろん正規の認可登録は漢字表記なので、「ようちえん」は政治家の選挙ポスターと同じ便宜的使い方だと言えます。

★最初は強い違和感があった
 最初は私も「幼稚園は幼稚園と書くのが当たり前」と思っていましたし、「意味を表す漢字を大事にするのが日本語なのに、どうして?」と強い違和感を感じました。「まさか都道府県や文科省は平仮名を認めないだろう」とも思いました。ところが文科省広報誌の記事でも、市町村のホームページでも、平仮名で園名を表記しているところは、そのまま平仮名にしているのです。
 ○○幼稚園という場合、○○の部分は地名や意味のある言葉であることが多いので、ここは漢字で残し、幼稚園だけ平仮名にする場合もあれば、すべてを平仮名にする場合もあります。そんな事例をたくさん見ているうち、私の中から違和感が消えました。逆に「幼稚園は、やがてみんな『ようちえん』になるだろう」と思うようになりました。
 保育所は認定こども園に移行すると「こども園」に改名するところが大半です。一方、幼稚園は認定こども園に移行しても、名前は幼稚園のままという園が多く見られます。長く親しまれた幼稚園という言葉と音(おん)への愛着なのでしょう。したがって、いずれ世の中は「こども園か幼稚園か」という時代になると思います。そうなった場合、30年、50年先の将来を考えると、「幼稚園」の漢字看板を背負ったままでは、それが弱点になる心配があります。こども園の方が、素直でわかりやすい表現だからです。

★「幼稚」には高尚な意味もあるのだが
 キンダーガーデンを日本語にすれば、ふつうは幼児園かこども園です。ところが明治の教育者は一ひねりを入れて幼稚園としました。「幼稚」という言葉には「瑞々しい若さ」「失敗を恐れぬ行動力」という意味があったからです。それこそ最初の学校教育(集団教育)に相応しい言葉と考えたのです。慶應義塾の附属小学校が「慶應幼稚舎」と表記するのに通ずるものです。
 幼稚園教育の実際を知る人なら、誰もその中身が「幼稚」だとは思いません。逆に「人間形成を培う一番大事な教育だ」と認識しています。親が真剣に幼稚園を選ぶ所以であり、「幼稚園教育こそもっともハイレベルな教育」と多くの専門家が評価しています。
 でも一般には「幼稚」という字を見て、そこまで考えの及ぶ人はめったにいません。短絡的に「思慮が浅い」「行動が稚拙」などに結びついてしまう人が多いのです。幼稚園にとって辛いところです。しかし長い歴史を経て、「ようちえん」の音(おん)は耳に馴染んでいます。それなら、眼に誤解を与える漢字をやめて、耳でわかる平仮名にしよう、と考えるのは自然の流れです。決して姑息な手段ではありません。いつの時代でもネーミングは状況を変える力を持っています。表記変更は妙案であり英断だと言えます。「ようちえん」なら、遠い将来まで「こども園」と十分に張り合っていけると思います。どうか実験的にでも「ようちえん」表記の拡大に取り組んでほしいと願っています。

※この内容を短くまとめた「園ふぁん449号」(PDFファイル)
幼稚園情報センター・片岡進