★朝の自由遊びから課外教室まで
“英語教育=英語での遊び”が盛んになるにつれ、幼稚園で外国人先生に出会う機会が大幅に増えた。派遣会社からネイティブの先生が来るのは「週1回」という形が多い。しかし最近は派遣会社のサービス精神か、英語の時間にだけ現れるのではなく、朝の自由遊びから子ども達とのふれあいを始める先生が多い。
この自由遊びで英語指導の雰囲気は随分違うように感ずる。「外国人も同じ人間、同じ大人」という実感を子ども達がより強く持つからだろう。
午前中は年長、年中さんと英語で遊び、お昼は、どこかのクラスに入って一緒にランチ。英語での会話が続く。午後は年少さんと英語で歌ったり踊ったり、絵本を読んだり。そして放課後は課外教室。さらに卒園児と学童保育の小学生に英語を教え、気になったことがあったら職員室に報告して帰る。この報告が、意外に日本人先生が見落としていることが多いとも聞く。こんな具合に外国人先生は丸一日の勤めを果たす。なかなかの重労働で、子どもが好きでなくては勤まらない。
そのほか、お誕生会、お泊まり会、運動会、発表会、餅つき大会などの行事にも応援に駆けつけ、大事な出番を担当する。英語の先生もけっこう忙しい。もちろん行事の出番は講師が自発的に協力しているわけでなく、幼稚園の要請で参加し、相応の報酬も支払われている。しかし園児、保護者、教師にとっては、それだけ外国人に接する体験が増えるので、異文化交流の点で価値ある投資だと経営者は考えている。
「週に1日だけじゃなく、2日か3日、いやできれば毎日、外国人の先生がいたらもっと楽しいだろう」と考える経営者もいて、常勤スタッフとして独自に採用したり派遣会社と契約を増やす幼稚園も多くなった。そうなると英語指導だけでなく、絵画、音楽、体育、木工、畑仕事、ビデオ撮影など自分の得意技を生かしながら、日本の先生と同じようにいろいろな仕事をする。私が取材した中では北海道、宮城、福島、東京、岐阜で、日本人教師とほぼ同数の外国人教師がいる幼稚園に出会った。すべてのクラスに副担任として外国人先生が貼り付く事例もあった。ただ母国で幼稚園教師の資格を持っていても、日本では有効でなく、補助金対象の教員にはならない。幼稚園の人件費負担は大変だ。だが、それには代えられないダイナミックさが生まれると経営者は言う。
★自国の風土・文化を子ども達に語る
しかし、言葉がよく通じない外国人が職員組織に加わることには心配もある。そこで時々見かけるのが、インターンシップ(体験研修)制度を利用して海外から学生を受け入れ、外国人がいる職場風土に慣れていく方式である。特に大学で日本語を学んでいる外国人学生は、日本での実地体験を希望しているので、この方式は学生も歓迎している。幼稚園側も、外国人が毎日いる状況を体験し、問題点を洗い出してから本格的な職員採用を始めることができる。
インターンシップのビザは、就労がメインの特別活動ビザ(ワーキングホリデー)とは違う「文化活動ビザ」で、180日まで滞在できる。ただ幼稚園でいろいろな仕事をしてもらっても、仕事に対する報酬を支払うことは禁じられている。しかし滞在に必要な経費(住居費、生活費、渡航費、保険料、現地交通費など)を受け入れ先が補助もしくは全額負担することは差し支えない。学生は少ない負担で日本の生活文化と幼稚園教師を体験できることになる。
埼玉県のある幼稚園では、園に隣接する空き住宅を利用し、そこに半年交代で2人ずつ留学生を住まわせている。外国人先生は朝から午後まで子ども達と遊び、他の先生方と一緒に教材準備をして、夕方と週末は自由に日本文化を堪能する。時には同僚の日本人先生を招いて、お国の料理を振る舞ったりもする。ロシア、ポーランド、ウクライナ、ベトナム、インドネシア、ブラジルなど、英語を母国語としない人が、英語で会話し、子どもに英語を教えることで、留学生は英語と日本語の両方が上達するそうでもある。
幼稚園にいる半年の間に、外国人先生は各クラスを回り、パソコンを駆使して自国の文化や家族を紹介するレクチャータイムを持つ。子ども達が楽しみにしている時間だ。それを聞いた年長さんの中には、親の協力も得て、先生の国についてさらに調べを深め、すっかり専門家になる子もいるという。外国人先生に強い関心を持った結果だろう。好奇心、探求心を含め、子ども達の国際感覚を磨く上で、こうした外国人先生の貢献は大きい。
日本の幼稚園は日々国際化が進行している。外国人の園児も増えてきていることもひとつ。そしてこんな具合に外国人の先生が増えていることもある。この傾向が拡大していくことは間違いないことだと思う。
幼稚園情報センター・片岡進