月々に進化するおなじみの行事

最近の幼稚園お誕生会アラカルト

誕生児と新人教師には緊張の場面

2015年7月13日

★欠かせない園長先生の存在感
 幼稚園を訪ね歩いていて一番よく出会う行事、それはもちろん「お誕生会」である。どこの園でも月に一度はあるし、年齢ごとに三回行う園も珍しくない。いくつになっても誕生日は嬉しいが、子どもにはまた格別で、それは「五歳になった」「六歳になった」という成長の自覚をつくる場でもある。
 回数が多いので、お誕生会は若い先生、新人の先生にとって行事運営の技量を磨く場にもなっている。内容を企画し、園児、保護者、先輩教師の視線を受けて司会や手遊びを担当する。緊張の場面であるが失敗を重ねることも良い教師になるための経験となる。園児も同じで、年に一度の晴れ舞台である反面、「とうとう自分の番がきた。うまくできるだろうか」との不安がよぎる。これまた大事な緊張経験だ。だからお誕生会は、いつ見ても、どこで見ても新鮮である。
 中身はさまざまだが、最近の様子を実況アラカルト風に紹介しよう。10時、ホールに在園児と先生が集まり、後ろには誕生児の保護者が座っている。拍手に迎えられて金色の冠をかぶった誕生児が入場してステージに並ぶ。まずは全員で『たんたん誕生日』を歌い、先生手作りのバースデーカードが贈られる。首に下げたカードを開くと、園児の手形、園長先生とのツーショット写真、担任教師からのメッセージなどが貼ってある。一生の宝物だ。
 続いて自己紹介とインタビュー。たとえば4歳になった年少児には「好きな食べ物はなに?」、5歳の年中児には「幼稚園で好きな遊びはなに?」、6歳になった年長児には「大きくなったら何になりたいですか?」などと聞く。事前に家庭やクラスでリハーサルをした子も多いが、「サッカー選手になる」と言うはずだった年長男子が、突然「ハンバーグ屋さんになる」と言って友達やお母さんを驚かせたりする。自分の未来を目まぐるしくも真剣に考えている証拠である。
 それから誕生児は年齢ごとに歌やダンスや好きなポーズを披露し、園長先生からプレゼントをもらってステージを下りる。プレゼントはクレヨン、色鉛筆が多いが、園名の入ったカレー皿、サラダボール、マグカップなど三年間で食器セットが揃う園もある。
 出番を終えてホッとした誕生児は、冠を載せたままクラスの席で先生たちのプレゼントショーを見る。寸劇、エプロンシアター、人形劇、影絵……と月ごとに演目が変わり、先生方の芸域を広げるのに貢献する。そして最後は芸達者な園長先生が腹話術、手品、ギター弾き語りなどを披露する。こちらはいつもと同じ芸とギャグだが、同じところが子ども達は大好きで、同じようにやってくれる園長先生が大好きだ。
 たくさんのお誕生会を見てきて感ずること。それは、その場に欠かせない存在が園長先生であることだ。なにも無理に芸をしなくてもいい。一緒にいてくれるだけで子どもも先生も嬉しい。真剣になる。もし園長先生がいなかったら気抜けしたお誕生会になることだろう。あれこれ忙しい園長先生ではあるが、お誕生会だけはぜひとも幼稚園にいてほしいと切に願うものである。できれば理事長さんも。
 
★お母さんが語る誕生日のドラマ
 というのがお誕生会の一般的パターンだが、ふつうはこれだけでは終わらない。クラスに戻ってからのオプションがある。改めて「おめでとう」を言ってみんなでオヤツを食べる。このスペシャルオヤツを、ボランティアのお母さん方が手作りで用意する園もある。そしてオヤツの後は、誕生児の母親が「わが子が生まれた時」の思い出を語る。子ども達は息をつめて聞き入る。お友達の誕生ドラマは自分の誕生物語でもあり、興味津々なのである。
 お母さんはそのまま残り、持参のお弁当を広げて、子ども達と一緒にランチを楽しむ園もある。ランチの後は会議室に移動して、お茶を飲みながら園長先生の話を聞いたり、お母さん同士のおしゃべりで降園時間までを過ごす。
 それとは違い、誕生児がお弁当を持って園長室に行き、園長先生と一緒にランチタイムをする園もある。お弁当に込められたお母さんの気合いはいつも以上で、フタを開けた園児も、のぞき込んだ園長先生も、しばしうっとりと芸術鑑賞となる。天気がいいと園長先生が園バスを運転し、丘の上の公園でお弁当を広げることもある。
 こうした全体の様子は昔とさほど変わらないが、変わったのは、ホール後方の保護者席に夫婦そろって座る姿が増えたことだ。そこで「お父さんが仕事を休まなくてもいいように」と自由登園の土曜日にお誕生会を行う園もある。そうすると祖父母や小学生の兄弟姉妹も参加するので、幼稚園はさながらファミリーサタデーの趣になる。飲み物を持参した家族が小さなテーブルを囲み、そこに誕生児が自分で作ったクッキーを運んでくる。前の日、園長先生と一緒に丸めて焼いたもので、ちゃんと人数分がある。たったひとつの小さなクッキーを食べ、「実に美味しい!」と手を叩いたおじいちゃんの顔が印象的だった。この笑顔こそ孫への最高のプレゼントだと思ったものである。

参考付録
横浜市・あざみ野白ゆり幼稚園のお誕生会「先生たちのプレゼントショー」(YouTube動画)

幼稚園情報センター・片岡進