真相は私的横領か政治工作資金か

全日私幼連で4億4千万の使途不明金

私立幼稚園終焉の事件になる恐れも

2021年3月27日

★会長の悲願は幼児教育振興法だった
 2021年3月、NHKを皮切りにメディアは一斉に全日本私立幼稚園連合会(以下=全日私幼連)で巨額の使途不明金が発覚したと報じました。その金額は2017年4月〜2020年9月までの3年半で4億円余。系列のPTA連合会でも4100万円が見つかり合計4億4千万円余。さらに系列の公益財団法人幼児教育研究機構でも不審な現金出し入れが1億4千万円あり、香川敬前会長(山口県・鞠生幼稚園園長)と元事務局長K氏による不正な資金操作は5億8千万円余になるとのことです。
 全日私幼連は、47の都道府県幼稚園団体で構成する連合体で、各幼稚園は都道府県団体に加盟することで全日私幼連と繋がり、その数は7500〜7700(認定こども園に移行した園も含む)と言われます。各都道府県団体は、加盟園数と園児数に応じた会費を全日私幼連に納め、総額は年間約2億円です。
 全日私幼連の第一の目的は、幼稚園教育の振興と幼稚園経営の安定を図る政策推進、補助金増額の活動、つまりは政治活動です。総会、全国園長研修会、PTA全国大会には多数の国会議員が参列し、特に自民党と深い関係にあることは周知の事実です。そこで一部メディアは「使途不明金は、2019年10月から始まった幼児教育無償化を実現するため、自民党議員への裏献金に使われたのではないか」と推測を交えて伝えました。時期的にも“さもありなん”と思える推論です。
 香川会長らは預金通帳の偽造まで行っていましたが、事件が発覚して香川氏は2020年11月末に会長を辞任。事務局長も辞職しました(退職日は12月末)。また香川氏は、自宅を担保に1億5千万円を借り入れ、使途不明金の一部穴埋めに差し出しました。結果、流出額は2億9千万円余になりました。内部調査やNHKの取材に、香川氏は「1円たりとも私的流用はしていない」と答え、元事務局長は「すべて会長の指示で行った」と答えています。そして全日私幼連執行部は「この不祥事は、2人による横領事件であり、刑事告訴する」と結論づけて都道府県団体に報告し、告訴を受けて警視庁捜査二課が事件解明に動き出しました。
 というのが3月18日時点の事件概略です。しかし多少なりとも2人の人柄に接した私には、単純な横領事件とは到底思えません。かと言って幼児教育無償化に絡んだとも思えません。私の眼には「幼児教育振興法」がキーワードとして浮かびます。副会長4年、会長10年を勤めた香川氏の悲願は、幼児教育振興法の制定にあったからです。2016年春に議員立法で国会提出され、継続審議を繰り返した同法案は、幼児教育の重要性とその素晴らしさを謳い上げると同時に、幼児教育無償化に法的裏付けを与えるものであり、それに伴う3〜5歳義務教育化に対する幼稚園・保育所の位置づけを行うものでした。彼は、この法案を成立させて、次の会長にバトンタッチしたいと考えていたのです。

★吉田松陰の志を継ぐ人間になろうと
 香川氏の幼稚園は、吉田松陰の実妹が創設に関わった130年の歴史を持つ仏教系幼稚園(認定こども園)です。彼もまた吉田松陰を心から尊敬し、松陰のような人物になりたいと自己修養に励みました。幼児教育振興法を世に残すことができれば、松陰先生に恥じない人間になれると思ったのです。
 法案を起草した2015年頃は、大きな財源を要する幼児教育無償化は、段階的に進めても実現までに10年くらいかかると思われていました。だから香川氏は、法案成立→無償化実現→義務教育化対応と長期的な段取りを考えました。ところが無償化は経済効果が大きいと踏んだ当時の安倍首相が、2017年秋の総選挙で早期実現を急遽ぶち上げ、強引とも言えるやり方で無償化を先行させたのです。
 無償化スタートと同時の法案成立ならまだしも、無償化だけが先行すると、法案は永久にお蔵入りになりかねません。そこで香川氏は、急ぎの政治工作を独断で仕掛けたのだろうと思います。使途不明金の発生時期と法案の動きがピタリと符号するからです。
実際、2019年秋の臨時国会で、2日間でも参議院の審議日程が確保できたら、成立したかも知れません。滑り込みセーフの状態だったのです。しかし結果は失敗でした。幼児教育振興法も、吉田松陰に捧げる夢も永遠の闇に消えてしまったのです。そればかりか、私立幼稚園の終焉に繋がる事件を引き起こしてしまったのです。理想が挫折した痛恨の失敗劇、それが真相だろうと私は思えてなりません。


※幼児教育振興法案全文
ようちえん情報センター 片岡 進